僕の1番仲が良かった親友は32歳の時に統合失調症が原因で亡くなりました。
- 特に何ができるか分からない。
- どうやって関わっていいか分からない。
- たぶんすぐに治るだろう。
そんな風にしているうちに、亡くなりました。
『もっとあの時、統合失調症について詳しく知っていたら助けられたかもしれない。』
そんな思い・後悔は親友の死後1年経っても無くなりませんが、今は統合失調症について勉強しています。僕の親友と同じく命を落としてしまう人が少しでも減るように、情報を発信できたらと思っています。
今回は、統合失調症の原因を調べてみました。なぜ、あんなに元気だった普通の人が統合失調症に・・・。その理由が今回の記事でお伝えできたらと思います。
Contents
前提:統合失調症はハッキリとした『1つの原因で発症するものではない』
まず前提として言っておかねばならないのは、統合失調症は、特定の明確な1つの原因があって発症するのではなく、複数の要因が重なった結果発症するものだということです。つまり、発症の過程は人によって千差万別で、これが原因です、と簡単に言い切れるものではないということです。
つまり、統合失調症の原因は今のところ明らかにされていません。分からないのです。
統合失調症は心の病であり、ひとりとして全く同じ人生を歩む人がいない以上、どうしてもひとくくりに『これが原因だ』と言い切れないのです。
そのことを理解していただいたうえで、長年にわたる医療関係者や研究者の経験的な検証の結果や、疫学や社会学を始はじめとしたさまざまな研究結果から推測される統合失調症の発症リスク、危険因子についての見解をご紹介していきたいと思います。
1.統合失調症は「素因」と「環境」の両方が関係している

統合失調症の原因ははっきりとは分かっていないのが現状です。(2017年1月28日現在)
ですが、世界中の様々な研究結果を総合すると、実は2つの事が大きく影響していることが分かりました。
それが、
- 『素因』
- 『環境』
という2つの要素です。そして割合は素因が3分の2、環境が3分の1で統合失調症に影響を与えているとされているのです。(厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」参照)
それでは詳しく見てみましょう。
素因

素因とは何かを分かりやすく言うと、「その人が持っている、その病気にかかりやすい素質」のことです。
「素因」は「遺伝」とイコールではありません。遺伝は含まれますが、遺伝以外の様々な要素もはたらいているのです。いくつかの考えられる主な素因とは以下のようなものです。
【素因その1】遺伝
両親からの遺伝について
とはいえ、素因の中でも遺伝の影響は比較的大きいものであるということはいえます。厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」というサイトを調べてみると、
母親が統合失調症の場合、子供の発症率は10%
とされています。
またほかのサイトを調べてみると、詳しい資料までは見つけられませんでしたが
- 両親の片方が統合失調症を発症していた場合:子どもの発症率は10%
- 両親が共に統合失調症を発症していた場合:子どもの発症率は46%
であるという報告も見られました。
双子の遺伝について
また、遺伝子が100%一致する一卵性双生児においては、発症率は50%程度であるという調査結果があります。
遺伝の影響が大きい病気であれば双子の2人ともが発症するはずです。でも必ず発症するとは限らないことから、やはり統合失調症においては遺伝子は原因ではなく、素因(=なりやすいリスクを持っている)のひとつだと捉えることが大事です。
遺伝的な要素は大きい「かもしれない」が、必ず遺伝するわけではない
しかし、特に両親が共に発症している状態では、高い確率で家族の構成員がストレスフルな状態にさらされている家庭であるということが推測されるため、遺伝子だけが原因なのか、むしろ環境的、心理的要因もかなり影響があるのではないかということも考えられます。(ストレスと発症の関係については下の章で詳しくご説明します)
僕の親友はどうだったか…。
僕の親友のご両親が統合失調症だった、という話は聞いたことがありません。ただ、3人兄弟だった親友のお兄さんの1人がなんらかの精神的な病を抱えていた、とは聞いたことがあります。
もしもお兄さんも親友同様統合失調症だったら?と考えると、同じ家族内に統合失調症患者がいる事は、遺伝子的にも近いものがあると思うので確率が上がるのではないかと思ってしまいます。
【素因その2】出生の季節
統合失調症は、冬期、及び冬から春にかけて生まれた人の発症リスクが10%高いと言われています。また、諸説ありますが、日照時間の短い北欧など緯度の高い国はリスクが高くなるという報告もあります。
ただ、僕の友人は8月生まれ。夏生まれなのでこれともあまり関係がないような気がします。
【素因その3】出生時の状況
妊娠や出産時にトラブルがあった場合、また父親が高齢の場合にリスクが高まるという報告があります。
【素因その4】脳の脆弱性(ぜいじゃくせい)
脳の脆弱性とは、具体的にはストレスに対して反応の大きい脳のことを指します。身の回りの人を見ても、同じストレスを受けても、ある人にとっては非常に苦痛でストレスフルだが、別の人にとってはまあそんなこともあるか、と流せてしまう、というようなことがあると思います。
打たれ弱さ、という言葉にも近いかもしれません。これを「元々の性格」という言い方をしたりする場合もありますが、「単なる気の持ちよう」というような、時に無理解の元となる誤解を招く危険があるという点に関しては注意が必要です。
ストレスを受けると、脳内からドーパミンという物質が分泌されますが、その出やすさ、出にくさは元々の体質に関わっているもので、生まれつきの素因であるといえます。
ただし、脳の脆弱性に関しては、近年ストレスに対処する適切な訓練を積む事で改善ができるという事例が報告されています。素因があることを自覚した上で、出来る事がたくさんあるということを知ることも大切なことです。
慢性的なストレスのかかる「環境」

素因と同様に、確実に影響すると考えられているのが環境要因です。
ひとことで言うと、強いストレスや、心理的苦痛、緊張状態が、日常的に慢性的に続いている環境に身を置いていることが、重大な発症リスクの要因となるのです。
高EEとは?
EEとは、英語のExpressed Emotionの略で、直訳すると「感情表出」なのですが、ここで意味するのはネガティブな感情表出のことです。
具体的には
- 批判的感情
- 無視や攻撃といった敵意ある感情
- 過度に気遣っておろおろとしたり、言うなりになったり、考えがぐらつく感情的巻き込まれ
などをあらわします。
つまり、このような感情に支配されている家庭を「高EEの家庭」と言うわけです。
これは、元々1960年代のイギリスで提唱された概念で、病院で治療した統合失調症の患者の退院後の経過が、家庭のありようによって大きく異なることに気づいた治療者が統計を取ってみたことがはじまりです。
その結果、退院後、高EEの家庭に戻った患者は、そうでない人に比べて再発率が5倍にものぼるということが分かったのです。
これは統合失調症だけに見られる事ではなく、多くの精神疾患において同様の統計結果になるということが報告されています。
両親が共に統合失調症であった場合の発症リスクを遺伝子のみとは言い切れないと先に述べたのは、こうした理由からです。
僕の親友の場合
僕の親友は特にお父さんと仲が悪かったとずっと言っていました。
なぜそこまで仲が悪かったのか。僕は実際にお父さんともお話をしたことがあるのですが、とても社交的でそこまで息子につらく当たるようなお父さんには見えませんでした。
ただ、家庭内でどのようなやり取りが行われているか?どんな雰囲気だったのか?までは実際に一緒に暮らしていないと分からないです。
親友が父親との関係が悪かった、というのは事実みたいですし、それなりにストレスが多い家庭だったのかもしれません。
長時間過ごす場、例えば勤務先などのEEが高い場合は同様に注意
日常的な生活の場である家庭と同様に、その人が長時間過ごす勤務先などにおいても、その場が高EEであった場合、同じように発症リスクは高まると考えるのが妥当です。
統合失調症を発症した人の多くは、彼らなりに対人関係に非常に苦労して、努力して、そして挫折を繰り返してきた人たちなのだということが言えると思います。
僕の親友は酷い腰痛持ちでした。オフィスで座り続けるのがかなり苦痛なほどの腰痛で仕事がまともにできない。とよく話していました。それに加えて、合わない上司、とてもプレッシャーがかかっている様子もありました。
その結果、なかなか1つの会社に定着することができず、色んな職を転々としていました。本人はなんとかして努力していたと思います。でもきっと、思うように働けない自分に対して色々悩み苦しんでいたのでしょう…。
統合失調症患者を生んでしまう「社会」にも目を向ける必要がある
しかし、家庭と親の育て方が悪い、職場環境が悪い、と単純に決めつけるのは短絡的なことです。
先にもお話したに、脳の脆弱性には個人差があり、物事の感じ方は人によって大きくことなります。コミュニケーション能力が高く器用な人もいれば、不器用でスローな人もいます。
このスピードの速い、合理的で、情報過多の資本主義の世の中で、うまく適応できない人、器用にサバイブできない人をだめな人と位置づける社会のありようについて、皆が真剣に考えなければいけないということを、統合失調症という病は我々に突きつけています。
そして『引き金』

こうした状況で踏ん張っている人に、大きなショックを与える出来事が、ある意味とどめのように降りかかってきた時に、脳内の物質バランスの崩れが決定的となり、はっきりとした症状を表出するに至ります。
具体的には
- 身近な誰かの死や別れ
- 結婚や離婚、出産にまつわる色々な出来事
- 転居などに伴う環境および人間関係の大きな変化
- 進学や就職における挫折
などのことです。
統合失調症の発症は、思春期から30歳にかけてがおよそ70〜80%を占めますが、この年代は人生の大きな転機を多く経験する世代だと言えると思います。そして、その事は病の発症と無関係ではないということが推測されています。
まとめ
統合失調症の原因は、単純明快かつ短期的なものではありません。
素因と環境が複雑に絡み合い影響し合っていて、ストレスの多い生き難い人生をなんとか持ちこたえている人に、何か耐えがたい、決定的にその人を追いつめる出来事が降りかかってきた時に発症する病気なのです。
素因は自分では変えられませんが、環境は変えることが可能です。そして、この病は素因だけでは発症することはありません。繰り返しますが、長期的に無理に無理を重ねた結果、そしてその人を更に追いつめるつらい出来事があって、はじめて発症に至るのです。
そういう意味では、統合失調症とは、社会の病だと言うことができます。その事を、当事者だけでなく、皆がいま一度考えてみるべきなのではないでしょうか。
■参考サイト
- 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」
- 統合失調症なび様
- せせらぎメンタルクリニック様

松原 潤一

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