パニック障害の方は、そうでない人にとっては些細なことでも多大なストレスを感じます。
そうして、大きなストレスを抱えるがゆえにパニック発作を起こしやすくなると言えます。
では、そのストレスを過大に感じないようにする方法はないのでしょうか?
パニック障害を克服(治療)するために大切なことは何か?
パニック障害の方は、感受性が強く、物事を繊細にとらえ、細かい部分にまで考えが及びます。
しかし、その考え方がいささか心配性であったり、不安を持ってしまうものであったりすることが多いということがわかっています。
そのような、基本的なもののとらえ方をもう少し緩やかに、気楽に、リラックスできるものに変えて、様々なことに対するストレスを最小限に、もしくは受け流すことができれば、パニック障害の克服に大いに役立つでしょう。
大切なのはストレスを減らすことなのです。
そんなストレスを減らす、心を軽くする治療が認知行動療法なのです。
認知行動療法とは?
認知行動療法とは、現在注目を集めている精神療法です。認知行動療法では、本来あなたが持っている心の力を育てていきます。
その結果、何らかの困難に直面した時にも乗り越えることができるようになります。
認知とは何でしょう?
認知とは現実の受け取り方、ものの見方の事です。
もう少し詳しく言うと、認知とは、
「知覚(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚など)を通じて感じ取ったものを定義していく過程」の事です。
小さいころから個々の知覚について、知らないうちに「認知」を重ねてきています。
その知覚のどれかまたは複数がつらいイメージと結びつくと、不安の種になるのです。
また認知の中でも、「自動思考」と呼ばれるものがあります。
これは、何かの出来事があった時に瞬間的に浮かぶイメージの事です。
例えば、「先生に叱られた」という状況に遭遇したとき、
A:先生に叱られた⇒先生に叱られてしまうなんて、わたしは全くダメな人間だ、もうだめだ。
B:先生に叱られた⇒先生が叱ってくれるなんて、ありがたいな。
このような2つの思考=認知があります。
Aはネガティブな、Bはポジティブなという違いはありますが、どちらも自動思考です。
しかし、Aの認知は少し偏っているということができます。
この、認知の偏りを訂正し、「自分にとって少しでもつらくない考え方」へ変えていく。
これが、認知行動療法です。
再認知したい情報はつらいものや、気分的に嫌なものが多いのです。
この療法は慎重に進める必要があります。
認知行動療法は専門医に。
認知行動療法は、本来であれば専門医・主治医との連携のもと、じっくり時間をかけてカウンセリングを行い、進めていくべき療法です。
なぜなら、この認知行動療法は、自分自身の内面に深く降りていくこと必要だからです。
そして、自分自身を客観的に見つめ、分析する冷静さが必要です。
パニック障害は感情に大きく作用される病気です。
ですから、ご自身の体調・精神状態があまりよくないときは、まずそちらを治すことに専念してください。
心の余裕が出てきてからゆっくりと取り掛かっていただきたいのです。
認知行動療法にかかるのは時間だけではない。
2010年より、認知行動療法にかかる治療費が保険適用になりました。
これにより、病院での治療の一環としての認知行動療法は保険がききます。
ですが、従来通り、セラピーなどの、医師が介在しないセッションは保険適用外になります。
ですので、認知行動療法を受けたい場合はパニック障害の治療とともに、担当医師に相談するのが良いでしょう。
認知行動療法が効果があると認められればセッションを受けられる病院を紹介してもらうことができます。
認知行動療法にかかる時間
認知行動療法にかかる時間は1回のセッションが30分~と状態により時間の延長もありえます。
治療には時間をかけるため、大体16~20回のセッションが必要になります。
宿題として、自宅でのペーパーワークもあることを忘れてはいけません。
カウンセリングだけでなく、自宅でもできるだけ自分に向き合う時間を作ることが望まれます。
認知行動療法を行える病院はまだ少ないので、主治医に相談するのが一番の近道でしょう。
お仕事をされている方は日程の調整も必要です。
認知行動療法のメリットとデメリット
メリット
- 薬を使わないので薬そのものによる副作用や体の不調に悩まされない。
⇒認知行動療法はお薬を使わない治療なので、薬をやめたときに起きうる再発や、薬そのものによる体の不調に悩まされることがありません。 - 治療後も効果が続く
⇒パニック障害の根本的な原因である「考え方」を変えてしまう療法ですので、治療後も効果が続くのです。 - 再発予防の効果が期待できる
⇒認知行動療法は治療を終えた後も、その学んだ方法を日常生活の中に積極的に取り入れることで再発予防の効果が期待できます。
これらのことは、パニック障害を抱える人にとって大変なメリットです。
デメリット
- 時間と根気が必要
⇒自分自身と向き合い、一つ一つの感情を再認知していく作業だからです。 - つらい記憶を思い出す必要が出てくる可能性がある
⇒自分自身と向き合うということは、過去の辛い記憶をたどっていくことも必要になります。
なので、できれば内面を支えてくれる存在と共に挑んでいただきたいと思います。
では、自分ひとりで認知行動療法を試すことはできないのでしょうか?
カウンセラーと共に行う認知行動療法をそのまま自分だけで行うことはできませんが、一人でできることもあります。
自分自身で行う認知行動療法のやりかた

自分でこの認知療法をやる際の注意は2つです。
- 無理をしないこと。
- いそがずゆっくり進めること。
セルフセッション中に気分が悪くなってきたら、無理をせず中止してくださいね。
いつ始めても、いつ終了してもいいのです。
気楽に始めてみてください。
では、順にやり方を説明します。
手順1.自分のストレスを知る
ストレスには2種類あります。
- 自分でわかるストレス
- 自分でも気が付いていないストレス
です。このストレスを洗い出す作業は根気が必要です。
ゆっくり進めてください。
ただ漠然と考えるより、ノートを用意して書くほうがいいでしょう。
専門医によるセッションではコラム法という方法が使われます。
これは、考え方のバランスを取り戻すために大変優れた方法です。
↓コラム法を詳しく解説しているこの動画も参考にしてください。
ネガティブ思考を変化させる認知行動療法〜コラム法の使い方〜
「書く」という行為は5感をフルに使うことができ、「ただ考える」ことの5倍の刺激を脳に与えることができます。
ノートにかくことで、整理されやすいのも利点です。
認知行動療法「ストレス日記をつけよう」〜うつ病やパニック障害を克服するためにという動画がありましたので、こちらも参考にしてみてください。
手順2.ストレスの起こる状況と、自分の感情の動きを調べる。
自分がどのようなストレスを感じているかがわかったら、次はもっと詳しくそのストレスについて調べていきます。
ここで明らかにしていくのは、
- ストレスの起こる状況
- そのストレスを感じたときにおこる自分の感情
この二つです。
ここでは自動思考による感情の動きをより正確にとらえる作業をするのです。
手順3.自動思考が、感情や行動に及ぼす影響を調べる。
次に、この自動思考について調べていきます。
例えば、小さいころに犬にかまれたことがあるとします。
このとき認知は、
「犬」⇒「かわいい」⇒「ちかづく」⇒「うなる」⇒「何もしていないのにかまれる」⇒「怖い」
このように関連付けをします。そして、何度も犬に会うたびにこの認知を繰り返し、中間の細やかな心の動きや行動はカットされ、
「犬」⇒「かわいい」⇒「ちかづく」⇒「うなる」⇒「何もしていないのにかまれる」⇒「怖い」
「犬」⇒「怖い」
と瞬時に頭にイメージが浮かぶようになります。
その結果、犬を見るだけでこわくて動けなくなる、動悸がする、といった行動が現れるのです。
このような自動思考の後に現れる事象を確認していきます。
手順4.自動思考のクセに気付く
自動思考のクセ、というのは、多かれ少なかれ誰もが持っているものです。
その中でも、極端な例が「くせ(偏り)」です。
この認知の偏りは次の7パターンに分類することができます。
- 感情的決めつけ
根拠がないのにネガティブな結論を引き出す。
例:挨拶をしたのに返してもらえなかった⇒私のことを嫌っているに違いない。 - 選択的注目(こころの色眼鏡)
よいこともあるのに、些細なネガティブなことに注意を注ぐ - 過度の一般化
小さな出来事をまるで全世界が評価したかのように結論付ける
例:ほんの小さなつまづきで、もうすべてが終わってしまったかのように感じる。 - 拡大解釈と過小評価
自分にとって都合の悪いことを大きく、反対によくできていることを小さく考える - 自己非難(個人化)
自分に関係のない事柄まですべて自分の
せいだと考えたり、原因を必要以上に自分自身と関連付けする - “0か100か”思考(白黒思考・完ぺき主義)
白黒つけずにはいられない。
非効率なまで完璧を求める。 - 自分で実現してしまう予言
否定的な予測をして、行動を制限し、その結果失敗する。
そうして、否定的な予測をますます信じ込む。
このようなパターンに当てはまっていないか、自動思考をチェックしてみましょう。
自動思考のクセがあると認知することがはじめの一歩になるのです。
手順5.自動思考と現実のズレを比べて自由な視点で現実に沿った柔らかいものの見方に変える練習をする。
この練習には次のような問いかけが有効です。
- 家族や友人だったらどんなアドバイスをするだろう?
- 他の人(具体的な知人など)だったらどうアドバイスるだろう?
- 元気な時だったら違う見方をするのではないか?
感じたことや、考えたことをどんどんノートに書き込んでいきましょう。
そうすることで再認知していく様子を把握することができます。
手順6.考え方が変わってきたら、問題を解決する方法や人間関係を改善する方法も練習する。
以上が自分でできる認知行動療法の一つです。
1度やったら終わりではなく定期的に自分への問いかけを続けることでより効果が得られることでしょう。
まとめ

認知行動療法は、ものの見方、考え方を変える方法です。
「人」は変えられませんが考え方は変えることができます。
上の練習で、辛くなった時に、自分の頭に浮かんだイメージをバランスの良い考え方に変えることができるようになっています。
このことで、将来新たなストレスを感じても、さらりと受け流す力がついたはずです。
また、認知行動療法は焦らず、ゆっくり、じっくりがコツです。
この認知行動療法が一助となりますように(^▽^)/
参考資料:うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)【厚生労働省科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」】


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