首に起こるヘルニア。頚椎椎間板ヘルニアとは?
椎間板ヘルニアとは、背骨のクッション部分にあたる『椎間板』が潰れて飛び出してしまい、その先にある神経を圧迫・損傷させてしまう病気です。
椎間板ヘルニアについて詳しくは以下の記事で解説しています。
⇒「子供でもわかる『椎間板ヘルニアとは何なのか?』仕組みから症状、原因を徹底解説!」

椎間板は、タテに積み重なって背骨を構成している『椎骨(ついこつ)』の間に挟まっていますから、実は首から腰まであります。
↑ 椎骨のイメージ
その中でも、ヘルニアと言ったら『腰椎』。腰部分の椎間板に起こるのがわりと一般的ですが、今回解説するのは『頚椎(けいつい) 椎間板ヘルニア』。首部分に起こってしまうヘルニアです。
この記事では、首にヘルニアが起こるとどんな症状が現れるのか?何が原因で、現在の医療現場ではどんな対処・治療がおこなわれているのか?を詳しく解説しています!
1.頚椎ヘルニアのおもな原因
頚椎に限らず、ヘルニアの原因はひとえに「椎間板に重すぎる負荷をかけ続けてしまう」ことです。
具体的な原因として挙げられるのは大きく分けて4つです。
- 姿勢の悪さ
- スポーツ
- 交通事故やケガ
- 加齢による骨の老化
やはりまず挙げられるのは姿勢の悪さ。
一見ラクに感じてしまう猫背ですが、じつは首にかかる負担は、まっすぐ立った時に対して約3倍に増えるんです!ただでさえ人間の頭はスイカ1個分の重さ(6kgほど)ありますから、猫背の状態では20kg近くの負荷がかかっていることになります。猫背になりがちなデスクワークのときには1時間に1回は休憩をして、首を休ませてあげましょう。
スポーツが原因というのもよく見られます。体をひねる水泳やゴルフ、格闘技やテニスなどのハードなスポーツに多いですね。そのなかでも特に、プロレスラーには高い確率で頚椎ヘルニアが起こります。職業病とも言え、プロレスラーは予防のため首を徹底的に鍛えるそうです。
ほか、交通事故やケガによって椎間板を痛めるケースもあります。
また加齢による骨の老化も原因となり、頚椎ヘルニアの患者で1番多い年代は50〜60代の中高年なんです。
2.症状と治療法
じっさい頚椎ヘルニアになってしまうと、どんな症状として現れてくるのでしょうか。これは、ヘルニアが神経のどの部分にダメージを与えているか?によって大きく2種類の症状に分けられます。
その1.片側の手や肩に痛み・しびれが起こる〜【神経根症】
背骨を走る神経からは、左右に枝のように伸びている部分があるのですが、これを神経根と呼びます。そして、ヘルニアがこの神経根の部分を圧迫してしまうことで起こる症状を、そのまま神経根症というんですね。

どんな症状か?
左右片方の手や肩部分に、強い痛みやしびれが起きるのが特徴。
最初に、寝違いと似た痛みや違和感を感じることが多く、次いで片方の手・肩の広い範囲で強い痛みが出てきます。このころを“急性期”と呼び、安静に過ごすことで2〜3週間ほどで症状が落ち着いてきます。
以降、鈍痛やしびれが残りますが、数週間から3ヶ月以内にヘルニアが自然と無くなります。このまま治るケースが9割なんですね。
おもな治療法は保存治療
この神経根症状の場合は「保存治療」をおこないます。保存治療とは、ヘルニアは放っておいても自然と消滅するので、それまでのあいだ安静にしたり温めたり、また牽引や薬物治療などにより症状を和らげよう。というものです。
‥って言うと、一見ただ単に痛みをやり過ごすだけの療法に思えますね。
しかし、症状を和らげることは筋肉をリラックスさせ、血行を促し治癒を早めるという、れっきとした治療効果を発揮してくれるんです。とくに薬物治療はその最たるもの。首に限らず、今やヘルニア治療の9割はこの保存治療で治ると言われています。
頚椎ヘルニアの必須アイテム『頚椎カラー』
保存治療のとき、必ず使われるのがこの『頚椎カラー』です。

言わばコルセットで、首を固定して負担を軽減してくれます。
首のヘルニアになった臭いのでこれからYoshikiさんのマネするわ。 pic.twitter.com/s66DiKekqv
— DAKEY (@inoutdakey) 2015年8月5日
激しいパフォーマンスが原因で頚椎ヘルニアになった、XJAPAN YOSHIKIさんもご愛用(笑)。
この頚椎カラー、保存治療のときや手術をおこなったあとなど、頚椎ヘルニア治療のさいにはとても強い味方になります。
ただ、気をつけたいのは着ける期間。漫然と着けていると、首の筋肉が衰えかえって治療に時間がかかる原因にもなってしまうんです。約4〜8週間のケースが多いですが、医師の指導のもと適切な期間着用することが大切ですね。
カラーの装着に併せて、消炎剤や筋弛緩剤などで症状を抑えます。また、しびれにはビタミンB剤。“神経ビタミン”と呼ばれるビタミンB12がしびれに効果があるためで、食べ物だと貝類(しじみなど)に多く含まれます。
ほかに牽引や温熱療法などをおこない、症状を和らげているうちにヘルニアが自然と消滅しています。これが神経根症のときにおこなわれる保存治療です。
8〜9割がこの療法で治りますが、数ヶ月おこなって改善が見られない場合や痛みがあまりにも強い場合には、手術を検討します。『前方除圧固定術』という手術法で、このあと詳しく解説しています。
その2.運動障害が起こる〜【脊髄症】
神経根が枝だとしたら、脊髄は幹の部分。さまざまな神経が束になっているところです。そしてこの脊髄部分をヘルニアが圧迫してしまい起こる症状を『脊髄症(せきずいしょう)』と呼びます。

どんな症状か?
こちらも、手足のしびれや痛みがまずありますが、神経根症と違うのは左右両側に現れるということです。これは脊髄が、全身に張り巡らされた神経の中心部だからなのですが、そのため他にもさまざまな症状として現れます。
1番多いのは手足の運動障害です。具体的には、
- 歩きづらい
- 足がつっぱる
- 箸やペンがうまく使えない‥など
これらが、数日から数週間のあいだで急に進行していくんです。さらには便秘や失禁などの排泄障害、後頭部の痛みや首〜背中のコリがよく見られます。
治療の流れ
運動障害が出てしまったら手術が必要です。
そのほかの症状で程度が軽いときは、まずは3ヶ月保存療法をおこなって様子を見ます。そして改善が見られなかったとき、または痛みや症状が強いときには手術を考えることになります。
3.頚椎ヘルニアの手術について
保存治療を数ヶ月おこなっても改善が見られなかったとき、または運動障害などの脊髄症状が現れてしまったときには、手術を検討します。
手術の目的は、“ヘルニアが神経を圧迫してない状態をつくること”で、これは腰のヘルニア手術にとっても同じこと。手術の方法が腰とは違うだけでなんですが、じゃあ頚椎ヘルニアの手術はどんな方法で行われるのか?代表的なものは2種類の手術法に分けられるので、それぞれご紹介します。
手術法その1:前方除圧固定術(ぜんぽうじょあつこていじゅつ)
全身麻酔のもと、首の前側を5cmほど切開。ヘルニアになっている椎間板すべてと骨の一部を取り除きます。

これでもちろん神経を圧迫することはなくなりますが、取り除いたあとが空洞になってしまうため、ここを補強しなければいけません。患者さん自身の腸骨(骨盤の一部)を移植したり、チタン製の医療器具(ケージといいます)などを入れ込み固定します。

手術後は翌日から起き上がることができます。頚椎カラーを約3週間着用。骨を採った腰にも痛みがありますから、歩くときには数日のあいだ歩行器を使います。10〜14日ほど入院したのち、経過チェックの通院を2〜3週間に1回、3ヶ月ほど続けます。
手術法その2:脊柱管拡大術(せきちゅうかんかくだいじゅつ)
神経の束である脊髄はデリケートですから、管に包まれ保護されています。この管を脊柱管と呼ぶんですね。電気器具のケーブルと一緒です。電線(神経)を、ゴム(脊柱管)で保護しているのと同じ作り、と考えると分かりやすいですね。

この脊柱管、加齢によって狭くなったり、生まれつき狭い人がいます。そこでヘルニアになると余計に神経が圧迫されやすく、症状が重くなる原因となってしまうんですね。
この狭くなった脊柱管を人工的に広げて、神経の圧迫を防ぐための手術です。
具体的には、脊柱管を構成している骨(椎弓)に切り込みを入れて、脊柱管を広げます。そこに人工骨や患者さん自身の骨を入れ込み、広がった状態で固定する手術法です。
こちらが手術法のイメージ。真ん中から割って広げる『縦割法(じゅうかつほう)』と、片側に切り込みを入れてドアを開くように広げる『片開き法』があります。
術後当日はベッドにて安静。様子を見て問題がなければ翌日から頚椎カラーを着けて歩くことができます。10日ほどで退院でき、そのあとは経過チェックのための通院を3ヶ月ほど続けます。
手術のリスクについて
頚椎ヘルニアの手術は神経や、食道やけい動脈といった繊細な部位のすぐそばにメスを入れるものです。ですから万一、それらを傷つけてしまうリスクがどうしてもついて回ります。
起こりうる合併症(手術が原因で起こる病気・症状)として
- 食道やけい動脈の損傷
- 感染症
- 脊髄の損傷による麻痺
- 腕が上に上がらない
などが存在します。手術を検討するときには、しっかりと主治医から合併症のリスクについての説明を受けた上で、十分に納得できるまで話し合うことがとても大切になってきます。
4.自分でできる対処法は?
このように、手術にはどうしても合併症のリスクがともないますから、言わば“ヘルニア治療の最終手段”。保存治療で治るに越したことはありません。
緩和のため、悪化させないために、普段の生活のなかで気をつけたいことがあります。基本は『首の後ろ側を圧迫させない』。これがキーワードです。なぜ後ろ側なんでしょう?それはイラストを見てもらうとよく分かります。
椎間板の後ろ側に神経があるからです。

頚椎ヘルニアの人が首の後ろを圧迫するような姿勢、たとえば天井を見上げるような姿勢をとったときの状態がどんなふうになるか?見てみましょう。

とっても痛々しいですね‥。よけいにヘルニアが神経に食い込んで、ダメージを深くしてしまうことが想像できます。
というわけで、頚椎ヘルニアの対処法で1番大切なのは、姿勢です。
具体的に、“日常生活のなかでとってしまいがちな首に負担をかける姿勢”というのを挙げてみます。心当たりがあったら是非気をつけてあげてください!
猫背
悪い姿勢の代名詞ですが、この猫背のとき首はこんな状態になってます。

背中は丸まっていても、視線は前を向かなくてはいけません。すると見事に首の後ろ側が圧迫されたポーズが出来上がってしまいます。
枕の高さ
低すぎる枕も、頚椎ヘルニアを発症・悪化させる要因になります。ためしに極端な例で、枕を使わないで寝ている人の首の状態を見てみましょう。

枕が無いぶん頭が後ろに倒れすぎて、やっぱりヘルニアを助長させるポーズになってしまいますね。
このため頚椎ヘルニアの人は、ふだんより高い枕を使ってみることで症状が緩和するケースが多く見られます。
その他やりがちな姿勢として、床に寝そべって本を読む。などがあります。ほか、後ろを振り返るような姿勢。またスマホやパソコンの長時間使用による首の緊張もやはり良くありません。
そしてヘッドバンキングもよくないです (笑)。
正しくおこなえば効果がありますが、自己流は厳禁!かえって患部をさらに痛めてしまい、悪化させる恐れもあります。必ず主治医などの専門家に相談したうえで正しいストレッチをおこないましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?頚椎は、身体のなかでもとくにデリケートな部位ですから、早めの適切な対応がとても大切になってきます。
この記事で得ていただいた情報が、あなたのお悩み、症状改善の手助けになれば幸いです!

たの

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